フォルスタージャパンのワインセラー
フォルスタージャパンのワインセラー

フォルスタージャパン
ワインセラーを語る

~フォルスタージャパンの歴史を語る~

ワインのプロにもご愛用いただいている、ワインセラー“ロングフレッシュ”。あるスイスの小さな町で開発された野菜用冷蔵庫との出会いから、その歴史は始まりました。

四季が豊かな日本に適したワインセラーを目指して、誕生から現在に至るまでの変遷を見つめてきた、諸澤光治がフォルスタージャパンの歴史を語ります。

フォルスタージャパン シニアソムリエ 諸澤光治

私自身ワインが好きでこの世界に入りました。もともとレストランでお客様にサービスするのが私の仕事だと思っていましたが、ワインセラーの企画、販売に携わると共に、ワインセラーに対する意識が変わっていきました。

1988年にエス・ティー・フォルスター(株)に入社してから30年が経過し、私自身の想いは変わっていませんが、会社は大きく変遷し、販売するワインセラーも多様化しました。

実務が3年以上たたないと取得できないワインアドバイザーの資格を取得し、その後実務10年間以上で受験できるシニアワインアドバイザーの資格を取得しました。そして、2017年の呼称カテゴリー統合でシニアソムリエになりました。詳しくはこちら

日本のワイン好きの方やワインのプロの方と交流し、ワインの勉強をしながら、フォルスタージャパン一筋でやってこれたことに感謝しています。

ロングフレッシュとの出会い

それは、三十数年前の学生時代にまで遡ります。

私はお酒が好きで、はじめはカクテル、その後ワインにより興味を持つようになりました。

ワインバーなどでアルバイトをしながら、学生時代の多くをワインと共に過ごし、アルバイト代のほとんどをワインにつぎ込むほど、その魅力に引き込まれていました。

その後、フランス料理レストランでアルバイトを始めたのですが、たまたま、そのレストランが店内に置くワインセラーを探していたのです。そこで、私はワインセラーを探すために、ワイン仲間のフリーランスのコピーライターとお茶の先生の3人でレストラン用品の展示会を訪れることになりました。

当時の日本のワインセラーといえば、作り付けの大掛かりな設備工事が必要なものばかり。値段もそれなりに高いものでした。

3人で展示会場を回っていたところ、白い大型冷蔵庫が展示されているのを見つけました。

庫内にはキャベツが丸ごと1個入っています。

ある日本の会社が出品していたもので、その方たちは、この野菜用冷蔵庫をスイスから輸入して、日本で展開していきたいとおっしゃっていました。

当時、私はまだ学生で名刺も持っていませんでしたし、そのまま帰宅したのですが、数日後、一緒に展示会に行ったコピーライターに連絡があり、野菜用冷蔵庫について、説明を受ける機会をいただきました。

当時の野菜用冷蔵庫のパンフレット(1987年のカタログより抜粋)

説明によると、この冷蔵庫には、野菜の鮮度を保つ加湿循環方法という独自技術が備わっていました。外から取り入れた空気を庫内で冷やす際に発生する水滴を利用することで、温度だけでなく湿度も十分に保てるというものでした。しかも野菜から発するエチレンガスを通気孔から放出すると同時に、新鮮な空気を随時とり入れる仕組みがあったのです。まるで、冷蔵庫が呼吸するようなイメージです。

「温度を12℃~14℃にキープでき、湿度も保てる。」

これが、ヒントになりました。

ワインボトルの内側は液体ですから、横にしておけば湿気は保てます。しかし、外側が乾いてくると、コルク栓とボトルの間に隙間が出来てしまい、ワインにダメージを与えてしまうのです。そこで、なるべくコルクをパンパンにしておきたいのですが、そのためにはある程度湿度が必要です。100%の湿度があってもよいのですが、そうすると、こんどはラベルが傷んでしまいます。

ワインの保存には、適切な温度環境のみならず、適当な湿度が必要だと知っていたことと、一緒に展示会に行った仲間がワインマニアだったこともあり、「この冷蔵庫はワインセラーとしてもよいのでは?」という発想につながりました。

そこで、私は、「もし、これから新しい会社で野菜用冷蔵庫を展開するのなら、ワインの保存用として始めてみてはどうだろう?」と提案したのです。今思えば、これがワインセラーとしてのロングフレッシュ誕生のきっかけになったのかもしれません。

この私の言葉に、この方が翌年独立して起業しエス・ティー・フォルスター株式会社を設立し、ヘルマン・フォルスター社からロングフレッシュを輸入してワインセラーとして販売を始めることになりました。

その頃、学生だった私は、1年くらい就職活動をしていたのですが、当時のフォルスターの専務が「うちの会社で一緒にやってみないか」と声をかけてくれたことで、ワインセラーの世界に引き込まれることになったのです。

フォルスターに入社して

1987年、エス・ティー・フォルスター(株)設立当時、スイスから輸入したヘルマン・フォルスター社開発の大型冷蔵庫(ロングフレッシュ)しかありませんでした。これから日本でダウンサイジングした冷蔵庫を作る計画が進んでおり、数億の仕事になると聞かされました。当時、ファウンダーと役員以外社員がおらず、そこで、私が第一号社員のようなかたちで1988年にエス・ティー・フォルスター(株)に入社することになったのです。

ファウンダーは商社の出身で、不動産とコインランドリー事業をやっていました。そこで知り合ったスイス人のブローカーが紹介してくれたのが、スイスのアルボンという小さな町で1982年に開発されたヘルマン・フォルスター社の冷蔵庫だったそうです。その冷蔵庫は世界18か国に特許を持っていた加湿循環方式の製品でした。そこで、その特許技術を使った冷蔵庫を改造し、日本で展開しようというプロジェクトがスタートしていたわけです。

たとえば、一般の冷蔵庫は密閉空間なので、果物、根菜類は自らが出すエチレンガスで、どんどん自滅していきます。

ところが、このヘルマン・フォルスター社の冷蔵庫は、庫内の空気を循環することで、エチレンガスを通気口から放出するので、腐りにくいのです。今から考えると、それほど難しい仕組みではなかったのですが、当時はこのような商品はなく、すごい特許だと思いました。

空気中には必ず何パーセントかの湿度があります。その水分を冷却するときに、普通の冷蔵庫では、強く冷やすので冷却器に霜がついてしまいます。一方、フォルスターの冷蔵庫は、冷却器の表面積を大きくしています。フィンのひだの表面積を大きくすることで、霜ではなく、水滴が冷却器につき、そこに風を送ってあげる。山おろしの冷気が湖に当たると靄がでるように、再度、気化するまでの間、空気で霧状に湿り気を与えている冷蔵庫だったわけです。そのあたりが面白いと思いましたね。

日本の住環境に適した日本製ワインセラーの開発

わたしたちは、まず、家庭向けの冷蔵庫から製造販売を始めました。

ただし、冷蔵庫のサイズが大きいままでは、日本の家庭には難しいため、ダウンサイジングして何種類か出すことにしました。

1988年に日本製のST-100、ST-270シリーズを発売。


通常は、台所には冷蔵庫がすでにあるので、設置スぺースが限られています。そこで、リビングに置くことができる高級家具調のワインセラーを発売。

ワインレッドのモデル。(1988年)

ステンドグラスを使ったワインセラー。(1988年)

日本でも、野菜用冷蔵庫が受け入れられないわけではありませんでしたが、ワインで売った方がイメージもいいということで、野菜用からワインにだんだん特化してきました。当時まだ、日本ではワインセラーという響きになじみがなく、ワイン雑誌も少ない時代でしたが『ヴィノテーク』というワイン雑誌が創刊され、そこにワインセラーの小さな広告を出して、ワインマニアの心を引き寄せました。

ガラス扉のワインセラーの発売

1987年以前には中身が見える冷蔵庫自体が家庭用では販売していませんでしたし、スイス製の冷蔵庫(LongFresh)にもガラス扉がありませんでした。そこで、プロトタイプでつけてみたところ、面白いということになり、ガラス扉タイプを販売するようになりました。

イタリアやフランスのデザインのようなかっこいい商品をつくろうと、四角いワインセラーの箱をデザインして、ガラス扉を使うことにしたのです。

当時のスイス製の大型モデル(120本収納)のワインセラーにワインボトルを並べると1段に8本、それが13段きれいに並び、出し入れもしやすかったため、そのデザインを踏襲して、ダウンサイズ化していきました。

ワインセラーは圧倒的に、ガラス扉のニーズが高いです。

ワインを入れたワインセラーは、ワイン自体がデザインになってきます。

ボトルのキャップシールを手前にして並べていても、ワインマニアは、キャップの色違いだけで、何がどこにあるか分かるようになります。そのため、実は見えない扉より、ガラス扉の方が開閉時間は短くなるのです。

ガラス扉は紫外線を防ぐためのコーティングがされていますし、ワインボトル自体も緑や黒っぽくなっています。こうして、光の影響を最小限にとどめて、見る楽しみと、保存する楽しみを徐々に拡げていけたと思います。

庫内のライトは、昔は白熱系のライトでしたが、現在、製品化しているものはほとんどがLEDです。LEDは熱の放出が少ないので、熱によるワインへの影響も少なくなりました。

1988年、日商岩井株式会社(双日株式会社の前身)との資本提携(後1999年に日商岩井メカトロニクス株式会社と対等合併・同社名に変更)、大阪事務所の開設を経て、1990年に商号をフォルスタージャパン株式会社に変更しました。人数も増えて、ワインセラー販売の積極的なアプローチに出たのが90年代の前半です。当時は、百貨店やレストラン関係に卸している厨房機器卸会社やワインショップのご紹介が主な販売ルートでした。ワインセラーはお金持ちが買うものというイメージがありましたが、もっと広い層にワイン消費が広がり、それに伴いワインセラーもより身近なものになっていくと考えていました。

ポリフェノールブーム到来でHomeCellar®発売に

その後、2回ほど、ワインブームの波が来て、ワインが市場に受け入れられるようになりました。一番のピークが、1997年から1998年にかけてポリフェノールブーム、フレンチパラドックスが巷をにぎわせて、ワインを飲むと健康になると、ワインの消費が非常に伸びました。こうして、家庭用の小型のワインセラーが求められるようになり、HomeCellar®のST-98やST-98Nが完成。これが、ヒット商品になりました。1997年に発売し2004年まで販売しましたが、「ワインセラーが今、ブーム」ということで、雑誌などにも掲載していただき注目されました。こうして、1998年から1999年にかけて、小型ワインセラーの市場が拡大し、競合商品や輸入商品が増えていったのです。

※フランス人は肉や乳製品の消費量が非常に多いにもかかわらず、他の欧州諸国と比較して心疾患による死亡率が少ないことを指す言葉。その原因は赤ワインに含まれるポリフェノールにあるのでは推測されている。

弊社も1997年から2008年にかけて、小型の日本製ワインセラーを数種類販売していましたが、もっと手軽に買えてワインセラーをより身近なものにしたいとの思いから、2010年に弊社初の中国生産の小型ワインセラーCASUAL(FJC-85G)を発売し、大手の各家電量販店を通じた販売が増えていきました。

ワインの楽しみがより一般的になって来て、お客様のワインセラーの使い方も多様になってきました。従来ワインセラーは、熟成してワインの変化を楽しむための保存環境を提供するものでしたが、お客様によっては、白ワインやスパークリングワインの飲み頃温度等、より低い温度での保存という使い方をしていらっしゃいました。そこに着目して、2015年に2温度タイプの上下室で別温度が設定できる大型ワインセラーのFJN-360Gを発売しました。2温度タイプのワインセラーは現在では大型のみならず、中型、小型までラインナップを増やしてきました。

また、2017年には環境保全の観点から、ワインセラー業界としては新しい取り組みである省エネ性の高いインバーターコンプレッサーを採用したCASUAL+(FJC-95G)を発売しました。2018年は2温度タイプのワインセラーでインバーターコンプレッサーを採用した大型ワインセラー(FJC-366GD)をCASUAL+シリーズとして発売しました。今後もインバーターコンプレッサー採用モデルを増やして省エネへの取り組みを続けていきたいと思います。

こだわりは、加湿循環方式と使い勝手のよさ

こだわりは、やはり、スイスで開発されたロングフレッシュの加湿循環方式です。特許が切れてもほかでは追随できない温度と湿度を維持できるシステムは、重要なコンセプトになっています。

日本には四季があり、夏は暑く冬は寒い環境の中、コンプレッサー方式は非常に冷却能力に優れており、日本にはコンプレッサー式がふさわしいという考えをつらぬいています。

一時期、ペルチェ式ワインセラーを販売したことがありましたが、夏場は若干冷却能力が弱い部分がありました。

主な冷却方式

コンプレッサー式

冷媒の気化熱を利用する冷却方式で、冷媒の循環にコンプレッサーを利用します。冷却力に優れ、省エネ性が高いことから、多くの家庭用冷蔵庫やドアの開閉頻度が高い業務用ショーケースなどに採用され、小型から大型まで幅広い製品が作られています。

ペルチェ式

半導体素子のペルチェ効果を利用する冷却方式。安価で小型化が容易というメリットがありますが、冷却効率が低く大型には不向きのため、小型のワインセラーに利用されています。排熱用のファンを必要とします。

アンモニア熱吸収式

コンプレッサー式と同様に冷媒の気化熱を利用する冷却方式ですが、冷媒にアンモニアを使用し、冷媒の循環にはヒーターを利用します。静音性に優れていますが、ワインセラーの冷却方式としては採用されることが少ないです。

また、使いやすさにはこだわりがあります。

奥行きが深いワインセラーは狭い日本の家屋事情には適していないため、ロングフレッシュは、奥行き60㎝以下とし、できるだけ奥行きを浅くしています。そこに、ボトルが1列一段で並んでいると、とても取り出しやすいのです。

ロングフレッシュは、何段にも重ねて収納せずに1段収納が基本で、ボトルキャップを手前にしておくことでワインボトルが取り出しやすいため、オペレーションしやすく、庫内温度の回復力があります。ワインのプロの第一線の方にも長くご愛用いただき、ソムリエや料理界における名立たる方にもお褒めの言葉をいただいています。

これからも、使いやすさにもこだわっていきますし、省エネの取り組みも引き続き必要です。

当初からの個人の想いとして、ワインセラーというより、ワインを身近に置いて楽しむこと、ワインの保存環境を整えることの重要性がもっと広まってほしいと思っています。また、ワインだけではなく、日本酒の管理まで、ハイエンドな方は着目してきています。今後、そういったことを製品に活かして開発していきたいと思います。

ワインセラーの必要性とは

最近はワイナリー巡りをして直接ワインを手に入れられる方が増えてきましたが、 折角手に入れたワインを押入れの中やサイドボードに立てて暫らく置いていて、飲んでがっかりしないように、ワインセラーに収納し、ボトルを立てずに寝かせて保存することをお薦めします。

ワインの保存にとっては、温度と湿度はぴったり何℃、ぴったり何%に調整というよりは、急激な変化をさせないことが大切です。

ヨーロッパの地下蔵も季節や昼夜で穏やかな温度の変化があります。 また、ヨーロッパの地下蔵はしっとりひんやりした雰囲気がありますが、湿度が高いため実は壁にびっしりカビが生えています。

ワインセラーは買うまでは躊躇される方が多いのですが、急なお客様の来訪で慌ててワインを買いに行くのではなく、家にあるワインの中からお料理に合うワインを選んでお客様に出せると素敵ではないですか?

ワインの楽しみが、ワインセラーをもつことで広がり、ワインライフを豊かにします。

そういった意味で、ワインセラーは貴重な存在です。

ワインセラーではなくワインが中心。ワインとワインを楽しむ人のために…。

そんな気持ちで、これからもワインセラーに携っていきたいと思います。